2024/09/27
ジェンダーレストイレとは?メリットやデメリット、設置事例を詳しく紹介
近年は、世界的に多様性社会の実現が求められています。
そのため、企業や自治体などで検討されているのが、「ジェンダーレストイレ」の設置です。
ただ、ジェンダーレストイレの設置に、どのようなメリットやデメリットがあるか詳しくない方は多いでしょう。
この記事では、ジェンダーレストイレとは何か、どのようなメリットやデメリットがあるか、実際の国内外の設置事例などについてご紹介します。
ジェンダーレストイレとは
ジェンダーレストイレとは、性別に関係なく利用できる広めのトイレのことです。
名称は統一されておらず、下記のような名称があります。
・ユニセックストイレ
・ジェンダーフリートイレ
・男女共用トイレ(オールジェンダートイレ)
・ジェンダーニュートラルトイレ
・だれでもトイレ
さまざまな人が気兼ねなく利用できるトイレは、多様性社会に求められているものの一つです。
アメリカ、スウェーデン、台湾などでも設置される例が増えており、国内でも設置する企業や学校などがあります。
必ずしもバリアフリー化されておらず、男女共用トイレとしての側面が強調される点で、多目的トイレ(多機能トイレ)とは違いがあります。
ジェンダーレストイレのメリット
ジェンダーレストイレがあることで、その建物を利用する方々にどのようなメリットがあるでしょうか。
ここで4つメリットを見ていきましょう。
性別問わずだれでも利用できる
ジェンダーレストイレが性別を問わず使えることは、特にLGBTQ+の方にとって大きなメリットです。
自認している性が体の性と異なる場合、男性専用トイレや女性専用トイレは使いづらいことがあります。
例えば、体の性に合わせたトイレに入るときに、異性用のトイレに入るような気まずさやいたたまれなさを感じることがあるでしょう。
また、外見を心の性に合わせ、手術をした方であっても、「誰かに指摘されたらどうしよう」と不安に思うことがあるかもしれません。
ジェンダーレストイレは、老若男女誰が使っても問題がない共用トイレとして設けられているため、上記のような苦痛を味わう機会を減らせます。
また、LGBTQ+に当てはまらない方でも、男性専用トイレや女性専用トイレが混雑しているときや、トイレが故障しているときなどに利用できます。
要介助者や子供連れにとっても便利
ジェンダーレストイレが広めに作られるのは、要介助者の利用も考えられているためです。
例えば、付き添いの男性や女性が、介助を必要とする異性をトイレに連れていきたいときに利用できます。
超高齢化社会で、要介助者が少なくない現状、介助スペースがあるトイレがあると便利です。
他にも、親が子供をトイレに連れて行くときにも利用できます。
子供が性犯罪に巻き込まれるリスクがあるため、付き添いたいと考える親も少なくありません。
しかし、親と子供で性が違い、子供が小学校低学年ほどだと、トイレの出入口前で分かれてしまうケースもあります。
このようなケースでは、待ち構えていた人が子供の後を尾行して…というような事態に対応できません。
リスクを避けたい親にとっても、親子で入れるトイレがあることも助かるものといえるでしょう。
SDGsへの取り組みとして
ジェンダーレストイレの設置が、SDGsへの取り組みになることもメリットの一つです。
SDGsとは、「持続可能な開発目標」を意味する言葉で、すべての人にとって過ごしやすい社会にするため、取り組んでいくべきことを指しています。
さまざまな目標が掲げられており、5「ジェンダー平等を実現しよう」、10「人や国の不平等をなくそう」などは、ジェンダーレストイレの設置にかかわりが深いものといえるでしょう。
社員にLGBTQ+の方がいる場合は、8「働きがいも経済成長も」、3「すべての人に健康と福祉を」なども該当します。
SDGsへの取り組みは、企業イメージの構築や、働きやすさの向上、人材確保や事業創出など、さまざまな事柄につなげられます。
多目的トイレの混雑解消になる
ジェンダーレストイレは、多目的トイレの混雑を解消する手助けにもなります。
場所や時間帯などよっては、数少ない多目的トイレが混雑することもあるはずです。
前述のLGBTQ+の方や、要介助者、子供連れなど、多目的トイレは利用者が多いためです。
それに加えて、男性専用や女性専用のトイレが混雑したときに、多目的トイレが使われることもあります。
ジェンダーレストイレを設置することで、利用者の分散が図れます。
それでいて、ジェンダーレストイレは、多目的トイレよりも省スペースです。
車椅子が入れるほどには広くしないで良いため、ジェンダーレストイレなら個室をいくつか作れる場合もあります。
トイレ全般が混雑するような施設ほど、ジェンダーレストイレの価値は高いといえるでしょう。
ジェンダーレストイレのデメリット
ジェンダーレストイレの設置は、通常のトイレと異なり、さまざまなことを考える必要があります。
失敗してしまわないように、デメリットも考えて設置に踏み切りましょう。
ここで3つのデメリットを確認していきます。
プライバシーに配慮した仕組み作りが必要
ジェンダーレストイレは、プライバシーへの配慮が必要です。
例えば、東京の高層複合施設「東急歌舞伎町タワー」は、ジェンダーレストイレを導入しましたが、その後改修した例として知られています。
その主な原因は、プライバシーに不安があったことです。
一般的なトイレは、出入口から男女別に分かれており、基本的に手洗い場にまで異性は入ってこない仕組みです。
しかし東急歌舞伎町タワーは、ジェンダーレストイレ8室、女性専用トイレ2室、男性専用トイレ2室、多目的トイレ1室を同じ部屋に収めていました。
出入口から手洗い場までを統一したため、「誰がジェンダーレストイレに入ったかわかってしまう…」、「女性専用トイレの前に男性が待ち伏せしていたら…」「化粧直しがしづらい」など、プライバシーを原因とした使いづらさがあったといわれます。
ジェンダーレストイレを設置する場合は、一見してどちらのトイレに入ったかわからなくしたり、男女別に専用エリアを残したりといった、プライバシーに配慮した仕組みが求められます。
防犯の仕組みを考える必要がある
ジェンダーレストイレは、設置前に防犯も考えなければなりません。
男女共用のトイレとして設置する以上、トイレというプライバシーが重視される空間に誰でも入れてしまうためです。
設置の方法次第では、東急歌舞伎町タワーと同様の状態になり、利用者に不安を与えてしまうことも考えられます。
入りやすく外から見えにくい状況は、スペースを性犯罪に悪用されたり、盗撮被害が起きたりという可能性を高めるため、リスクを考えたスペース作りが必要といえるでしょう。
なお、多目的トイレも同様のことがいえます。
車椅子の方や、障がいを抱えた方や、高齢の方、オストメイトの方、子連れの方などが男女問わず利用するため、多目的トイレも併せて設置する場合には注意が必要です。
設置スペースと費用の問題
ジェンダーレストイレを設置する前に、設置スペースと費用についてしっかり考える必要があるでしょう。
ジェンダーレストイレは、誰でも利用できるように、スペースを広めに取る必要があります。
スペースだけでなく、「通路からはどのトイレに入ったか見えないように」「いざというとき逃げられるよう行き止まりがない構造に」など考えると、レイアウトも特殊なものになります。
配管も変える必要があり、ただトイレをリフォームするよりも、設置にかかる費用は高くなりがちです。
また、既設のトイレの一部をジェンダーレストイレに置き換えるようであれば、男性や女性の専用スペースや個室が減ります。
そのため、他の利用者の不満が出ないようにしなければなりません。
多目的トイレをそのままジェンダーレストイレとして使用することも可能ですが、多目的トイレの混雑解消が目的であれば、多目的トイレとジェンダーレストイレは別々に設置する必要があります。
ジェンダーレストイレが設置されている海外の事例
ジェンダーレストイレは、世界のさまざまな国で設置されています。
ここでは、代表的な例として、アメリカやスウェーデン、台湾などの例をご紹介します。
アメリカ
アメリカでは「American Folk Art Museum(アメリカン・フォーク・アート博物館)」や「Whitney Museum of American Art(ホイットニー美術館)」、「Berg’n」などがジェンダーレストイレを取り入れた例として挙げられます。
具体的に、American Folk Art Museumは規模の小さな美術館で、トイレの個室は2つともジェンダーレストイレです。
中には大便器だけでなく小便器、手洗い場が設けられており、車椅子の方も使用できるので、多目的トイレに近いといえます。
ただし、「This restroom maybe used by any person regardless of gender identity or expression(このトイレは性自認や性表現にかかわらずどなたでもご利用いただけます)」という表示がされており、ジェンダーレストイレとして使えることがわかります。
スウェーデン
スウェーデンでは、駅や空港、デパートなどさまざまな場所でジェンダーレストイレを見られます。
具体例として、「Moderna Museet Stockholm(ストックホルム近代美術館)」や「Kulturhuset Stadsteatern(ストックホルム文化会館)」などを挙げることができます。
特にModerna Museet Stockholmでは、トイレのサインに男女半々のピクトグラムが採用され、ジェンダーを意識していることがわかるでしょう。
トイレの出入口と手洗い場、トイレの個室まで男女共用という形式は、東急歌舞伎町タワーとほぼ同様です。
しかし、それが大きく問題視されていないのは、スウェーデンの文化が関係しています。
スウェーデンは厳しい自然環境で、生きるために合理性や実用性などが重視されてきた歴史があるのです。
トイレも、「生理的に必要なことをおこなう場所」として認識されてきたため、男女で分ける必要性が薄く、男女共用のジェンダーレストイレが根付いています。
また、スウェーデンの人気童話「長くつ下のピッピ」には、前向きで常識に捉われない女性が主人公として登場します。
そのような女性が好まれる傾向があり、「女性は化粧をするもの」という意識も薄いため、手洗い場に大きな鏡がないトイレも珍しくありません。
台湾
台湾は、日本よりも前にジェンダーレストイレを各所に取り入れてきました。
「市立中崙高校」のような市立の高校や、「社会創新実験センター」、「西門紅桜」のような施設、「新北市政府庁舎」などにジェンダーレストイレが見られます。
学校にジェンダーレストイレが設置されているのは、未成年という居場所が限られる時期に性自認で悩む子供にも、受け入れる意思を示すためです。
「性別友善廁所」のように書かれているトイレがジェンダーレストイレに当たります。
台湾では、2000年頃からジェンダーレストイレの議論がはじまったため、受け入れている方と受け入れていない方に分かれています。
そのため、安全性やプライバシーなどに配慮が求められているのは、日本と同様です。
出入口に防犯カメラを設置したり、トイレ内部に非常ベルを設置したりと、工夫しているトイレもあります。
ジェンダーレストイレが設置されている日本の例
日本にも、ジェンダーレストイレが設置されている例があります。
ここでは、国内のジェンダーレストイレの設置事例を5つご紹介します。
鳥取大学
鳥取大学は、キャンパス内の広報センター1階と附属図書館1階の2箇所に、ジェンダーレストイレを設置しています。
平成28年から、LGBTQ+の理解を深めるため、ダイバーシティセミナーがおこなわれており、その参加者からの要望に応えた形です。
もともと、鳥取大学のキャンパス内には多目的トイレがあったため、そこを改修して、誰でも使えるジェンダーレストイレとして利用できるようにしています。
オストメイトの方も使える他、付属図書館1階のトイレは、ベビーチェアや介助用ベッドなども用意されているのが特徴です。
多目的トイレを改修してサインを変えたのみですが、「ALLGENDER」と表記されており、ジェンダーレストイレとしての役割も期待されています。
愛知県豊川市立小中学校
愛知県豊川市にも、ジェンダーレストイレが設置されている小中学校があります。
具体的には、豊川市立豊小学校、豊川市立長沢小学校、豊川市立西部中学校などです。
男女別のトイレを残した形で改修し、ジェンダーレストイレが設置されています。
出入口を共通にすることで、誰がどのトイレに入ったか廊下からはわかりづらい仕組みです。
「みんなのトイレ」という名称が使われ、各個室に洗面台も設置され、個室で完結しているのも特徴的といえるでしょう。
豊川市立西部中学校では、着替えのような荷物を置けるフィッティングボードを設置することで、より使いやすくしています。
国際基督教大学(ICU)
国際基督教大学(ICU)は、2020年9月にジェンダーレストイレを設置しています。
キャンパスの中でも、全学生が使用する本館のトイレを改修しました。
特に利用頻度が高いと思われる中央トイレの1~3階までを改修しているので、大幅な改修といえます。
その背景は、もともと国際基督教大学(ICU)は、海外からの帰国生や留学生が多く、ダイバーシティ教育に積極的であったためです。
「どのようなジェンダーレストイレなら使いやすいか」というアンケートを事前に実施し、改修は慎重に進められました。
例えば、個室の壁を厚くして音漏れに配慮し、ドアを上下に延ばすことで覗き込みも防止しています。
他にも、カメラが設置できないように、個室内の凹凸は少なく設計されているのも特徴といえるでしょう。
さらに、安全性を確保するために出入口を2つ設置し、行き止まりがないようなレイアウトにしており、多くの工夫が見られます。
MEGAドン・キホーテ渋谷本店
MEGAドン・キホーテ渋谷本店にも、ジェンダーレストイレが設置されています。
場所は2階フロアで、個室トイレが3室用意されています。
今までの店舗をクローズし、新たな店舗に移転した際に導入されています。
渋谷区には、認定した同性カップルにパートナーシップ証明書を交付できる条例があり、その配慮の一環として用意されました。
案内板には「ALLGENDER」の記載があり、ニュースリリースでも、「お子さま連れやお身体の不自由なお客さまの他、性的指向や性自認のいかんにかかわらず、どなたでもご利用いただけるトイレ」と書かれています。
多目的トイレではなく、あくまでも誰でも使えるトイレとして用意されているのが特徴です。
渋谷ソラスタ
渋谷ソラスタでも、ジェンダーレストイレが設置されています。
場所はスカイラウンジのある最上階で、スカイラウンジは、ビル内で働く人たちのリフレッシュの場としても利用されています。
ジェンダーレストイレだけでなく、女性専用トイレ、多目的トイレなども併せて設置されています。
「ALLGENDER」のサインがあり、出入口は女性専用トイレや多目的トイレと共通、利用者が自由に選んで使うことができます。
ジェンダーレストイレ利用者は最上階に向かうことになりますが、リフレッシュ目的なのか、どちらのトイレに入るのかなどがわからないため、その点に配慮が見られます。
他の階には、男性専用トイレや女性専用トイレ、多目的トイレも備えられており、使い分けることもできます。
成田国際空港 第1ターミナルビル
成田国際空港にも、第1ターミナルビルの1F到着ロビー内にジェンダーレストイレがあります。
2016年から4年をかけ、ターミナル内のトイレの全面リニューアルをおこない、ジェンダーレストイレもその際に設置されました。
その理由は、東京オリンピック・パラリンピックに備えるためです。
海外の旅行者が利用することも想定されており、体格が大きい要介助者と介助者が一緒に入っても十分に動き回れるだけの、広めのスペースが取られています。
個室の中に洗い場とフィッティングボードもあり、スーツケースも一緒に持ち込めます。
ジェンダーレストイレはもちろん、リニューアルされた男性専用トイレや女性専用トイレ、多目的トイレなども、デザイン面で非常に充実した造りになっています。
ジェンダーレストイレの設置はTOMITA株式会社にご相談ください
この記事では、ジェンダーレストイレとは何かという基本部分から、メリット、デメリット、実際の設置事例まで、詳しくご紹介しました。
ジェンダーレストイレは、LGBTQ+をはじめ、要介護者や子供連れなどさまざまな方が利用できるため、設置を求める声もあります。
スウェーデンのように男女共用トイレが根付いている国があり、日本でもコンビニのトイレは男女共用ということは珍しくありません。
しかし、男女共用では不安だという声もあるため、プライバシー保護や防犯などを考えて設置していく必要があります。
TOMITA株式会社は、店舗内装をメインに、幅広くリフォームやリノベーションなどを承っています。
独自の空間デザインチームが設計から工事まで対応するため、「こういうジェンダーレストイレに改修したい」「利用者や社員の声に応えたトイレにリフォームしたい」など、ご相談に乗ることが可能です。
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